植松努のブログ(まんまだね)

基本的に、facebookの僕の記事を転載します。

要求仕様の責任と、見直しと。

M16という鉄砲があります。
アメリカの鉄砲です。
ちょっと変わった仕組みで、
登場した時には、アルミニウムやプラスチックを使用した
外観は未来的すぎて、おもちゃのようだとバカにされます。

アメリカは、独立戦争の時から、
シャープシューターへのあこがれと尊敬があります。
狩猟を生業にしていた人達が、
独自の精度の高い鉄砲と、射撃の腕前で、
大軍に勝ったからです。
そのため、アメリカの軍用ライフルの評価は、
命中精度に対する要求がかなりうるさいらしいです。
(少なくともM16登場時は)

そのためM16は、銃の中で動く部品を極力少なくし、
軽くしています。重たい部品が動くと、命中精度に
悪影響があるからです。
また、かなり精度が高くつくられています。
でも、その結果として、
2千発も撃つと火薬のカスがついて動かなくなったり、
泥やほこりにも弱く、軍用銃としては繊細すぎる、
と言うのが日本の雑誌などでの一般的な評価のようです。

それに対して、ソビエト(ロシア)の、
カラシニコフライフル(AKシリーズ)は、
部品は重たいし、中身はすかすかだし、
汚れにも強いし、頑丈だそうです。
3千発撃っても、へいきのへえ、だそうです。
そのせいか、AK信者は日本ではかなり多いようです。
(しかし、AKを実際に使えるアメリカでは、
コレクションとしては持ってるけど、使いたくない
という人が多いそうです。)
そのかわり、命中精度は低いそうですが、
制作時の精度が高くないので、コピーもしやすく、
世界中で安価につくられて普及し、
世界でもっとも多くの人を殺した銃、などという
悪名ももらっています。

M16は、主に軍隊で支給品として使われていました。
でも、最近になって、特殊部隊や、民間の警備会社などが、
独自に改良をくわえたM16を使用するようになってきました。
その結果、M16は、新しい進化をはじめます。
今では、外観はM16とほぼ同じでも、
中の仕組みをM16以前の重たい部品に戻したタイプが、
信頼性が高い、と人気です。
当然、オリジナルのM16よりは命中精度は落ちるようですが、
そこは、照準器の進化などでカバーされているのかも。

M16を設計した人は、
要求された命中精度と、1回に使われる弾の数の相場から、
最適な設計をしたのだと思います。
でも、時代の変化によって、要求されるものも変わりました。
そのため、M16は、あらためて進化しました。
だのに、初期のM16が繊細すぎるダメな鉄砲のように
評価されるのはどうかなあ、と思います。

これは、鉄砲に限ったことではありません。
コンピューターのプログラムなどもそうですね。
要求された仕様と、実際の運用が全く違うために、
要求仕様どおりにつくったはずのプログラムが、
ダメ呼ばわりされてしまう、なんてのは、
よくあることです。

有名な零戦は、最初は防弾は要求されていなかったし、
そもそも、数百機しかつくる予定ではなかったから、
徹底した軽量化を手間をかけて行うことで、非力なエンジンでも
高性能を発揮しました。
でもそれが、後になってから、1万機もつくられる
はめになってしまったために、
無駄に手間のかかる軽量化、とバカにされたり、
防弾されていないことで、人命軽視の設計、などと
酷評されています。

大事なのは、要求仕様をしっかりさせることと、
その責任は、要求した側にある、ということを
明確にすることです。
でも日本では、その辺りがかなりうやむやで、
設計者や制作者が泣かされるケースが多いです。
だから、植松電機では、徹底した文書によるやり取りで、
言った言わない、などというくだらない議論を
排除しています。

さて、では、
人間に対する要求仕様はどうでしょう。
社会のニーズはどんどん変わっています。
その変化に、学校は対応できているでしょうか?
システムとしての教育を変化させるのには、
ものすごく時間がかかってしまいます。
だからこそ、臨機応変な対応が教育には
不可欠です。

だから、先生です。
何度も書いていますが、
先生とは、先に生まれちゃった人ではありません。
先に生きる人です。
時代の行く末を見通して、
それを子ども達に伝える役目があるはずです。

もちろん、その役目は、保護者も、そして、
社会の大人達みんながもっています。
だから僕らは、一生懸命に時代の先を見通して、
子ども達に示していくべきなのだと思います。