植松努のブログ(まんまだね)

基本的に、facebookの僕の記事を転載します。

缶サットを、もっと教育に活かすために。

缶サットというのは、
空き缶を利用した、空気中で作動する人工衛星のシミュレーターです。
通常は、350ミリリットルクラスの空き缶を利用しています。

上空からパラシュートで降下しながら、
大気の成分を分析したり、地上を撮影して分析したり、
それはまさに、惑星探査です。
だから、発展型として、地上に着陸してから、
自力で走行する探査機にばけるものもありです。

人工衛星は、通常は衛星軌道に入ってしまいますから、
打ち上げたものと、再会することはほぼ不可能です。
だから、人工衛星の様子は、無線で知るしかありません。
しかし、宇宙との無線交信は、なかなか難しいです。
基本的には、地平線の向こうとは通信しにくいし、
使える電波帯にも制限があります。
だから、無線がうまくいかないと、打ち上げた人工衛星が、
どうなったのかは、まったくわからなくなります。

そんなぶっつけ本場は、費用と時間の無駄になります。
だからこそ、空気のある中で打ち上げて、試すことが
とても大事になります。

人工衛星は大変です。
精密な電子機器なのに、ロケット打ち上げ時には強い加速を受けます。衝撃も受けます。振動にもさらされます。
さらには、ロケットから放出後も、姿勢を安定させるなどしないと、GPSもうまく受信できませんし、地上を撮影するのも不可能になります。
これは、本物も、缶サットも同じです。
だからこそ、大気中で運用する缶サットは、立派な人工衛星開発のシミュレーターです。

ただ、問題もあります。
そもそも、空き缶を利用することに無理があります。
なにせ、空き缶は金属だから、無線を遮断してしまいます。
さらには、薄い金属なので加工も危険を伴います。
現実には、空き缶は、大きさの制限にしかなっておらず、
機体の強度部品や、放熱の機能を持たされていることは
ほとんどありません。
また、強度も低く、墜落で容易に変形し、中の基板と接触してショートしたりする問題もあります。
また、電子部品の小型化によって、いまでは、
350ミリリットルの缶以下のサイズでも作れるようになってきています。
だから、もういっそ、空き缶を使うのをやめて、
ミニ四駆の大きさゲージのようなものでサイズをはかるだけで
十分だと思います。
炭酸飲料のペットボトルを使った機体は、中も見えるし、軽いし、
墜落しても弾力があるので壊れにくいなど、とてもメリットがあります。

また、現在の缶サット甲子園の既定では、
缶サットは、缶サットキャリアに入っています。
というか、缶サットを放出するための缶サットキャリアも
作らなければいけません。
ですから、缶サットは、ロケットで打ち上げられてから、
缶サットキャリアに入った状態で放出され、
その缶サットキャリアから、再度放出されます。
この間に、数秒かかることがあります。
それだけで、缶サットはどんどん降下してしまい、
打ち上げた高さを実験に有効に使えません。
その分、高く打ち上げないといけません。
しかも、缶サットキャリアの重量もあります。
そのため、ロケットには、更なるパワーも求められます。
結果として、
ロケットの打ち上げコストが高くなります。
現在使用されている強力なモデルロケットは、
1回の打ち上げに約15万円もかかってしまいます。
さらには、高く打ち上げないと行けないので、
(通常は、缶サット甲子園では、高度400mほどまで打ち上げます。)
航空法上の様々な手続きも発生しますし、
落下して来る缶サットとロケットのために、
安全範囲も広く必要です。

だから、缶サット甲子園。実は、予選の段階で、
飛んでいない衛星がけっこうあります。
というか、打ち上げられないのです。
ヘリコプターやバルーンで落下させる予選をしてくるチームもありますが、それもひとえに、ロケットのコストの問題です。
そして、ロケットのコストが上がってしまうのは、
缶サットの大きさと、缶サットキャリアの存在です。

缶サットは、落下中に実験をします。
だから、滞空時間は長い方がいいです。
しかし、滞空時間が長いと、風に流されます。
実際、最初の秋田での全国大会では、
一個しか回収できていません。のこりはみんな海まで流されて回収不可能でした。
それでは、データーが得られないのです。
また、公共の場である「空」を利用するにあたって、
「どこいったかわかんなくなりました」は、無責任すぎます。

低い高度でいいから、安価に安全に打ち上げることができた方が、
何度もトライできます。
滞空時間は、パラシュートの大きさで調整すれば、
低い高度でも、十分な時間滞空できます。

現在、缶サットを教育に活用しようという動きもあり、
海外から教育者を招いての勉強会なども行われています。
そこで使用される缶サットは、とても小さいです。
そして、缶サットキャリアもありません。
そのため、僕の得意なペーパークラフトロケットでも、
十分に高度150mほどまで打ち上げられます。
これだと、打ち上げコストは、2000円程度です。

また、缶サットを作る際に問題になるのは、「はんだ」です。
缶サットの開発ではなく、はんだの練習に終わってしまうケースもあります。
そこで、植松電機では、はんだ不要のブレッドボードを使用する
小型軽量な缶サットも開発しました。
これで、プログラミングや、データー処理の勉強に専念できます。

缶サットも、学校で行われている部活も、
目指すところは一緒だと思います。
好奇心や、集中力や、努力や、あきらめないことや、
チームワークや、対外的な関わりなどを学ぶための、
手段の一つです。
それは、社会にでるまでに養成すべきことです。
ただ、努力のためには、「好き」が必要です。
だからこそ、部活には選択肢が広いことが望ましいです。
過疎の地域では、指導者がいないという理由で、
文科系の部活がどんどん消えていきます。
選択肢がせばまっています。
だからこそ、缶サットが、比較的容易に安価にできる
部活動のようになったら、そこに参加できる子もいるんじゃないかなあと思います。

だからこそ、缶サットの問題を改善することは重要です。
植松電機は、近隣のスーパーサイエンスハイスクールとの
関わりの中で、独自の缶サット教育を研究しています。
缶サットを作り、プログラムし、打ち上げるロケットも作り、
打ち上げ運用し、缶サットを回収し、データを解析する。
この一連の流れをカリキュラムのようにできたら
もっと多くの学校が参加できるのではないかと思っています。

宇宙開発という環境を、教育に活かすため。
これからも「考えて試す」を努力して行きます。