植松努のブログ(まんまだね)

基本的に、facebookの僕の記事を転載します。

どうでもいいことはどうでもいい。

植松電機は宇宙開発・・・だけじゃないですね。
いろんな研究開発をしています。

もちろん、それらに使う実験装置は、
基本的に自分たちでつくります。

その理由としては、
自分たちでやった方が、はやいからです。

なにがはやいって、まず、図面を書く時間を短縮できます。
外部に製作を委託する際には、きっちり書かないといけませんが、自分でやるなら、必要なとこだけしっかりしていればいいです。
また、自分の設計なら、どこになにがつくのかわかっていますから、精度の管理が容易です。
例えば、フランジ足のついている既製品のリレーなどを
取り付ける穴であれば、すでに、リレーのフランジ足に
あいている穴自体が、かなりの公差を許容するサイズです。
その相手となる穴には、小数点の精度は不要です。

かつて、ドイツとソビエトは戦争をしました。
当時のソビエトにはT34/76という戦車がありました。
とても性能が良かったので、ドイツでもつくれないかと、
ドイツでは捕獲した戦車からの
リバースエンジニアリングに挑みます。
リバースエンジニアリングとは、現物から寸法を採って
設計図を起こすという方法です。

当時からドイツの工業製品の精度はとても高く、
ドイツのエンジンの図面を日本が購入したものの、
日本ではその精度を達成できず、実用化できなかった、
という現象も起きました。
(ちなみに、イタリアは同じエンジンを実用化しています。第二次世界大戦時のイタリアは、「弱い」とか、ぼろかすに言われることがありますが、間違いなく、日本よりも工業技術は上でした。)

そのドイツで、T34/76はコピーできたか。
こたえは、不可能でした。
T34/76の使用していたディーゼルエンジンは、
もとはスペインのイスパノスイザ社の航空エンジンです。
そのエンジン自体は、ドイツでも使用されていたから、
ドイツ人にもなじみがあったのにです。
その理由は、T34/76のエンジンは、大事なとこだけ
きっちりできているけど、どうでもいいとこは、
ほんとうにどうでもよくつくられていて、個体差がすごいのだそうです。

(どうでもいい、というのは、相手がいない、という部品です。
はめ合いとか、ネジ止めとか、相手がある部分は、
お互いの寸法があっていないと合体できません。
しかし、そもそも金属は温度でも形が変わりますし、
人間のやることですから、100%完璧にはできません。
ということで、この程度の差を許容しましょう、という
「公差(こうさ)」という概念が必要です。)
(ちなみに、日本では、高精度=公差が少ない、という感覚の人が多く、戦時中は、10ミリのボルトが通る穴は10ミリであける、ということも精神論的に要求されたりしたそうです。その結果、個体毎に、穴をやすりでずらして調整する必要が生じたばかりか、個体間の部品の互換性も無くなり、およそ近代兵器とは言えない製品を作ってしまったそうです。ちなみに、うちの父さんもそういう人でした。10ミリのボルトの通る穴を11ミリにするのは、根性が甘いのだそうです。もちろん、現在の植松電機では、ちゃんと公差の概念はありますよ。)

T34/76は、モスクワ直前にドイツ軍が迫る中、
必死でつくられた戦車です。
だから、どうでもいいとこは、どうでもよいから、
とにかく、機能だけ求められました。
そのため、リバースエンジニアリングしても、
図面にしようがなかったのだそうです。

研究開発にはお金がかかる、と言われます。
その原因として、この世にない研究をするためには、
実験装置もこの世にないのでつくらなければいけないため、
既製品の使用が制限され、単品製作になってしまうことが
影響しています。
しかし、その制作時に、どうでもいいとこはどうでもいい、
という考えをしっかり盛り込めば、
実は、実験装置は安価に単納期に、どころか、
へたしたら自分でつくれるようになります。

一緒にロケット開発をしている永田教授は、
もちはもち屋。と言ってくれました。
だから、永田先生は、植松電機に図面をだしません。
計算結果やグラフはくれます。でも、図面は、
アスファルトにチョークでかいたことと、
ダンボールにマジックでかいてくれたことが
あったかな・・・です。
でも、そのおかげで、研究開発を安価にできたのです。

時々、植松電機に宇宙関係の部品製作の依頼が来ます。
たいていは、大学生が図面を書いてくれます。
でもその図面は、実現不可能・・・とはいいませんが、
それを実現するには、すごいお金と納期がかかるよ、
という設計が多いです。
おそらく、コンピューターが自動的に公差を入れてくれるのか、
すべての数字に公差が入っています。
でも、よくよく話しを聞くと、ただのバカ穴でいい場所も多いです。
できれば、何をしたいのかを教えてくれたら、
それに最適な設計そのものを僕らができるのになあ、と
思います。

人生の資本も限られています。
その資本を、どこに投資するかが大事です。
どうでもいいことはどうでもいい。
という考え方も、大事だと僕は思っています。